自己破産を検討していますが先に家を任意売却した方が良いのでしょうか?
自宅などの不動産を所有している方が、債務の返済が困難になって自己破産をする場合、「先に家を売っておいた方が良いのですか?」というご質問をいただくことがあります。
先に家を任意売却してから自己破産をした方が良いのか、あるいは家を持ったまま自己破産の申し立てをした方が良いのかはケースバイケースで、その方の状況によっても異なります。
ここではケースごとにそのメリット・デメリットを解説していきます。
目次
自己破産の同時廃止と管財事件
結論から言うと、自己破産の前に任意売却をする最大のメリットは、「管財事件を回避できて同時廃止が認められる可能性が高まる」という点です。
そのため、この問題を考えるにあたっては、まず最初に自己破産には管財事件と同時廃止の2種類があるという点を理解しておかなければなりません。
管財事件とは?
管財事件とは、裁判所が任命する破産管財人弁護士が付く破産手続きです。
破産管財人は、主に債権者集会を実施したり、破産者の資産を換金し債権者に分配するなどの手続きを行う役割を担います。
同時廃止とは?
同時廃止とは、破産管財人が付かない破産のことです。
破産者に資産がない場合や、破産にあたって特に複雑な事情や疑わしい点などがなければ破産管財人が行う仕事がないため、破産管財人が付かずに破産手続き開始決定と同時に免責許可が下ります。
管財事件のデメリット
管財事件となってしまうと、以下のようなデメリットがあります。
①裁判所への予納金が必要になる(原則40万円、少額管財で20万円)
②破産管財人弁護士との面談など、労力がかかる
③自宅などの財産の処分が管財人に一任されてしまう
自己破産をする場合、管財事件になってしまうと以上のようなデメリットがあるため、できる限り同時廃止にしたいところです。
管財事件と同時廃止の基準
自己破産を申し立てて、管財事件になるか同時廃止になるかはご自身で選択できるわけではなく、その方の状況に応じて裁判所が決定します。
実際には地域ごとに差がありますが、同時廃止が認めらえる主な基準は以下の通りです。
①破産者に大きな資産がない
②複雑な事情や疑わしい点がない(財産隠しや特定の債権者のみへの返済など)
③免責不許可事由(ギャンブルや浪費等)がない
※実際にはそれぞれに非常に細かな要件があり、同時廃止が認めらるか総合的に判断されます。
※会社経営者や個人事業主は、非常に高い確率で管財事件になります。
【実際に同時廃止にできる確率は?】平成26~28年の司法統計によると、法人を除く個人の破産のうち同時廃止が認められているのは全国平均で65%前後です。さらに、会社経営者や個人事業主を除くとこの割合はさらに高くなり、70%を超える推定されます。従って、一般のサラリーマンや年金受給者などであれば、多くの場合に同時廃止で済むのです。
※ただし、これは地域(管轄する裁判所)によって大きな差があり、例えば東京では基準が極めて厳しく、逆70%以上が管財事件になります。
自己破産の前に自宅を任意売却しておくメリット
さて、管財事件と同時廃止の違いや基準を理解していただいたうえで、本題の「家を先に任意売却してから自己破産の申し立てをした方が良いのか?」について考えていきます。
同時廃止にできる可能性が高まり、予納金が不要になる
前述の同時廃止の基準に「①破産者に大きな資産がない」と記載しましたが、当然ながら不動産は資産に該当します。
そのため、自宅を任意売却する前に破産の申し立てを行えば、ほぼ間違いなく管財事件になってしまい、予納金が必要になるなど上記のようなデメリットが発生します。
逆に、自宅を先に売って、その売却代金を住宅ローン等の返済に充てれば資産がなくなるため、①の基準を満たして同時廃止が認められる可能性が高まり、認められれば予納金が不要になります。
競売を回避できてプライバシーが守られる
管財事件になってしまうと、自宅などの財産の処分は管財人に一任されます。
従って、管財人が選任された時点でもう自宅を自分の意志で売却することはできません。
そのため、管財人が任意売却を認めず、競売で財産を処分するという判断をした場合は競売を回避することができなくなってしまいます。
なお、自宅が競売になってしまうと、ネットに公開されてプライバシーが侵害されてしまいます。
それを避けるために、自宅を競売ではなく任意売却で処分するのであれば、自己破産の申し立ての前に任意売却をしておく必要があります。
引っ越し代を交渉できる
競売と異なり、任意売却であれば引越し代の捻出を交渉することができます。
もし自宅を売る前に自己破産を申し立てて、管財事件になって自宅が競売になってしまうと引っ越し代を交渉することができず、全額自己負担で引っ越しをしなければならなくなります。
※ただし、任意売却も必ず引越し代の捻出が認められるわけではありません。
自己破産の前に任意売却する際のデメリットと留意点
ただし、自己破産の前に任意売却をする場合はいくつか注意しなければならないことがあります。
住宅ローン等を返済しても売却代金が余る場合
自宅を任意売却した代金は、住宅ローンなど自宅に抵当権が付いている債務に優先的に返済されます。
このときその売却代金が残っている住宅ローンなどよりも高く、抵当権が付いている債務を全額返済しても余ってしまう場合、その余った資金は資産としてみなされるため、その資金が残っていると結局は同時廃止が認められず管財事件となります。
残った資金を引越し代や破産のための弁護士費用、その他生活費など最低限必要なものに使うことは問題なく、それで残った資金を自己破産の申立の前に減らしてしまえば同時廃止が認められる可能性があります。
ただし、そのために不必要な浪費をしたり、他人に渡す・隠すなどの不当な行為が疑われる場合には管財事件となり、悪質な場合は破産の免責許可が下りなくなってしまうため絶対に避けましょう。
また、余った資金を特定の債権者(親族や友人など)にだけ返済する行為も、偏波弁済という違法行為に該当しますので注意が必要です。
売却価格に注意
自己破産の申し立て前に任意売却をする場合、その価格が適正であることが求められます。
例えば、「2000万円の価値のある家を1000万円で親戚に売ってしまった」となれば、債権者の立場からすれば本来の2000万円で売っていればもっと多くの債権を回収できたということになります。
当然これは詐害行為(不当な財産隠し)に抵触して、後で取り消されたり自己破産が認められなくなってしまうリスクがありますので、売買価格には注意が必要です。
自宅を売った=同時廃止が認められるとは限らない
当然ながら同時廃止の基準は資産の有無だけではありません。
前述の①~③の中にも非常に細かい基準があり、またそれ以外にも様々な要件があり、最終的には裁判所が総合的に判断をして決定されます。
従って、家を先に任意売却したから必ず同時廃止で済むということはありません。
特に、会社経営者や個人事業主だった方は、資産がなくてもほとんどの場合で管財事件が適用されます。
なお、これは地域ごとにも大きな差があります。
弁護士によって見解や方針が異なる
弁護士によっては、自己破産を前提に自宅を先に売却してしまうことに対して難色を示す先生もいらっしゃいます。
中には「先に自宅を売るのであれば自分は破産の依頼を受けない」という方もいらっしゃいます。
これは、弁護士の倫理や見解の違いですので、何が正しいということはありません。
しかし、ご自身の希望と異なるようであれば複数の弁護士や専門家に相談してみるのも良いでしょう。
まとめ
以上、自己破産をする際に先に家を任意売却するべきという点についてご説明しました。
基本的には先に任意売却してしまった方が、破産で同時廃止になる可能性が高まり、競売も避けられるためメリットが大きいと言えます。
ただし、家を先に処分したからといって必ず管財事件を回避できるわけではありません。
また、売却資金の扱いや売却価格など注意しなければならない点も出てきます。
いずれにしても、破産における自宅の扱いはデリケートな問題ですので、慎重に検討しなければなりません。