住宅ローンが返せないときは期限の喪失事由となるのか?


期限の利益は、住宅ローンを借りた債務者に生じる利益です。

債務者の利益というと分かりにくいのですが、住宅ローンを分割で返済できることが利益であり、返済期限が到来していないことで債務者は長い間借り入れができる仕組みです。

何千万円も借り入れた場合に直ぐに返済することは不可能であるため、期限の利益は債務者にとって非常に大きな利益となっているということが分かります。

ローンを契約通りに毎月返済をしていれば問題はなく、滞納が続きそのまま返済を行わなかった場合には期限の利益を喪失し、債務の一括返済を求められるのです。

このとき、残った債務を一括弁済することはまず不可能であり、このままでは持ち家は競売になってしまうため、できれば期限の利益を喪失する前に手を打たなくてはいけません。

今回は「期限の利益喪失事由」を確認し、競売を防ぐ第一歩にすすめるよう、一体どういったことが該当してしまうのか、解説します。

住宅ローンの期限の利益喪失事由は契約書上の喪失条項にある

 

まず、住宅ローンの「期限の利益喪失事由」は契約書上の喪失条項に記載されているので確認するようにしましょう。
通常、期限の利益喪失条項で定めることが多いのは次の事由です。

①  返済を遅延したとき(3~6か月)
②  住所が不明になったとき
③  債務整理をしたとき(支払停止)
④  差押や仮差押えがあったとき
⑤  破産手続開始、民事再生開始の申し立てがあったとき
⑥  債務者が死亡したとき
⑦  契約違反や虚偽報告があったとき
⑧  その他信用状態が著しく悪化したとき

それでは、重要なポイントを解説していきます。

 

住宅ローンを滞納したとき

まず、住宅ローンを滞納したときは事由となるので注意しなくてはいけません。

しかし、滞納したとしても、支払い手続きを忘れているだけであれば、その後すぐに支払っていれば大きな問題にはなりません。

これは、履行の遅滞は相当の期間を定めた催告が必要であるとされているためであり、期限の利益を失うのは3~6か月経過したときとなります。
債権者としてはこの期間は督促や催促を行い、支払いを待ってくれている状況ともいえます。

要するに返済の遅延は「債務者に支払能力がない」「信用状態が著しく悪化した」場合に該当するのです。

ちなみに、住宅ローンの契約書にも、「分割払いを約束した期限に延滞し、催促をしたのに支払いをしない場合」に期限の利益を失うことについても記載されています。

 

第三者から差押・仮差押・仮処分を受けたとき

第三者から差押・仮差押・仮処分を受けたときも該当します。

例えば差押えは、税金の未納による滞納処分、担保権を実行するためや、その他第三者からの借入がある場合に行われます。

債権者は裁判で訴訟し、いざ回収手続に踏み切ろうとしても、不動産が無くなっていては、せっかく裁判費用も時間も掛けたとしても意味がありません。

そこで、差押・仮差押えとして、真っ先に「不動産に対する差押え」を行い、先に債務者の財産を事実上処分できないように押さえておくことがあります。

しかしこのような状態で、住宅ローンの遅延が発生した場合には、債権者は「債務者に支払能力がない」「信用状態が著しく悪化した」と判断して期限の利益を喪失させることができるのです。

※住宅ローンを遅延していなければ債権者は抵当権を先に設定しているため、差押えが入ったからといって予告なく期限の利益を失うことはありません。

(詳しくは>差押えで知っておくこと

 

住宅ローンが残っている自宅を不動産投資に利用したとき

住宅ローンが残っている自宅を、許可なく不動産投資に利用したときも事由に該当しますので注意して下さい。
許可ない不動産投資での利用は原則としては違反であるということです。

もともと住宅ローンは、「居住用として、自身の住む家」として借りているため、非常に金利が低く設定(変動0.45%~、固定1.2%ほど)されています。

収益を得るのが目的である不動産投資ローンであれば2.3%以上であるはずです。

これと比較すると、その金利の差は歴然です。

金融機関にやむを得ない事情とみなされない場合は賃貸物件にすることはできませんが、持ち家を賃貸物件として他人に貸し出したい場合は、住宅ローンから不動産投資ローンへの借り換えを行うことで残債のある自宅を賃貸に出すことが出来ます。

このとき、債権者に変更を届け出なくてはいけません。
借り換えを行うと、住宅ローンは完済扱いとなり、新たに不動産投資ローンがスタートするので、持ち家を収益物件として貸出可能となるのです。

借入先の住宅ローンの契約内容によって異なっていますが、住宅ローンを返済中の持ち家を無断で貸し出した場合は契約違反で一括返済を求められるケースがあるので注意が必要です。

 

民法上で該当したとき

次に、民法上で該当したときです。

民法では、
1.破産手続開始の決定を受けたとき
2.担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき
3.担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき

といった3つの場合において期限の利益が喪失すると定めています。

これらは全て、債権者の債権回収が難しくなると考えられるケースです。
つまり、返済の期日まで待っていては債権回収ができなくなるリスクが債権者に発生するので、一括返済を求めることになります。

また、法律には「破産手続開始決定後」のみ記されていますが、民事再生・会社更生・特別清算などにも期限の利益喪失事由となる場合があります。

 

期限の利益喪失の注意点

ここからは期限の利益喪失の注意点をまとめました。

 

債権者によって喪失する期限は異なる

事由に該当した場合、債権者によって喪失する期限は異なります。

銀行からの借入や住宅ローンなどの場合、銀行などは契約の際に保証会社との間に「保証委託契約」を結ぶのが一般的であり、この保証委託契約があることによって、万が一債務者が返済不可能な状態に陥った時、債務者に代わって保証会社が銀行などに借入残金の全額と利息、及び遅延損害金などを一括で返済することになります。

これを「代位弁済」といいます。
代位弁済をすることによって保証会社は「求償権」を得ることになります。

求償権を得る保証会社は各銀行で異なり、保証会社毎に定められた規定は違うため、喪失するまでに掛かる月数は違ってくるのです。

 

期限の利益を喪失すると元には戻れない

万が一、期限の利益を喪失すると元には戻れません。
期限の利益を喪失していなければ、返済が遅れた際に支払う必要があるのは、分割返済の1回分に対する遅延損害金のみです。

多少負担は増えますが、この段階であれば支払うことでまだ元のローンに戻れます。

しかしながら、期限の利益を喪失通知が届いてしまうと、残債に対して遅延損害金が掛かった一括請求となり、ローンにはしてもらえません。

そのまま払えなければ、債権者からの最終警告として、期限の利益喪失予告通知が届きますので、通知が届く前に対処しなくてはいけないのです。

 

期限の利益を喪失したら全額返済以外は認められない

期限の利益を喪失すると全額返済以外は認められません。

この段階で、少しまとまって返すのでもう一度ローンの支払いを継続したいとしても認めてもらえることはありません。
また、半分だけ払い、残りを分割でといった方法も行うことはできないため、残債の全額を払うことでしか、家に住み続けることができないのです。

非常に厳しい状況ですが、債権者は何度か督促状や催告書を送ってきているはずです。

 

払えない場合は競売になる

払えない場合は競売になります。

住宅ローンの場合、通常保証会社は自宅(土地・建物)に抵当権という担保を設定しています。
保証会社に代位弁済がされたら、保証会社は債権を回収するために裁判所に不動産競売を申立てます。

なお、不動産競売で落札代金が住宅ローンの借金に充当され住宅ローンの金額は減りますが、それでもかなりの金額が競売後も残ることが多いため、残債務を支払うか、自己破産等の手続が必要になります。

ちなみに、競売が始まってもすぐに引っ越さないといけない訳ではありません。
競売により落札され立ち退きを命じられるまでは、その不動産に住み続けることができます。

(類似記事>競売回避!住宅ローン滞納でどうなるのか?

 

期限の利益喪失事由に該当していたら

期限の利益喪失事由に該当していたら、状況にもよりますが、まずは取れる手段を行いましょう。
段階によっては、競売を避けることができることから、専門家に相談することが先決です。

 

債権者に連絡をする

まだ「期限の利益を喪失」していなければ、取れる手段として、債権者に連絡をして「今度こそ期日までに債務を履行できる」ということが伝わるよう、現在の収入や資産を開示し、支払えることを示す資料を準備の上お願いしてみましょう。

滞納した分と遅延損害金を揃えて支払い、今後もローンの継続が可能であると分かれば、債権者としても急かして手続きをとるより、少し待ってローン支払いの継続を認めてくれることがあります。

ただし、債権を保証会社に渡す手続き中であると受け付けてはもらえない可能性が高いです。
先述で触れた、「期限の利益喪失予告通知」または銀行からの連絡で期限を伝えられているはずですので、注意しましょう。

 

任意売却を相談する

既に住宅ローンの支払いが厳しい場合や、「期限の利益を喪失」してしまった場合は任意売却を相談しましょう。
自宅が競売にかけられる前に任意売却すれば、競売よりも高値で売却できる可能性もあります。
(詳しくは>任意売却とは

また、任意売却の場合は引越期限を調整してもらえたり、引越費用の一部を捻出してくれる場合もあるため、期限の利益喪失通知や代位弁済通知が届いたらすぐに任意売却の準備に取りかかることをおすすめします。

 

残された期間は少ないため早めに行動する

残された期間は少ないため早めに行動しましょう。

実は、期限の利益を喪失する段階であればそのまま住み続けることができる時間は約半年~1年くらいです。
売却や競売が長引き、多少延長することもありますが、引越しを考えなくてはいけなくなります。

少しでも早く行動することが条件の良い結果となることもあることを忘れないようにしましょう。

(さらに詳しくは>競売開始になっても任意売却は可能?

 

まとめ

住宅ローンを借りるとき、なかなか意識することができない「期限の利益喪失事由」ですが、気を付けていないと該当してしまい、手遅れになることもあるかもしれません。

早く気付くことができれば、対処することができる場合もあるため、住宅ローンを借りたときの契約書をきちんと確認をしておき、ローンの支払いには意識していると良いでしょう。

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