賃貸と持ち家で掛かるお金を徹底比較!わたしが賃貸派になった理由
あなたは、「持ち家派ですか?賃貸派ですか?」
世の中でよく議論されている、この問いに対する答えは未だに出ていません。
持ち家の購入を検討するものの、ネット知識や不動産会社の情報だけでは真実が話されていないことと、結局は生活状況により異なると結論付けをされてしまうからです。
私はこの問いに対して「賃貸派である」と答えていますが、私自身も新築戸建ての販売営業をしていた10年程前は新しい生活に夢見た方々へ持ち家の素晴らしさを語っていたものです。
しかし、その後転職をして賃貸の営業となったことで、買うときには想像していなかった、病気・転職・離婚など様々な生活状況の一変から引っ越しを余儀なくされた方の人生を知ることになりました。
ある方は、ご主人の突然のうつ病発症から収入の低下となり、持ち家の住宅ローンの支払いが困難になってしまったということで賃貸のお部屋を探されていました。
ただしそのお客様はオーバーローン状態であったため、簡単に家を売ることができない状況だったのです。
持ち家の買い手が見つかるまでの間は引っ越せないため、節約をしながら貯金を切り崩す生活となり、今後の住宅ローンの支払いに不安を抱えていらっしゃいました。
このように、住み替えたいが住み替えられない現実は「まさか」の出来事で、持ち家の購入時に支払いが困難になることは想定していなかったのではないでしょうか。
購入当時、共働きが前提で組んだ返済金額やボーナス払いのある住宅ローンは、35年間も維持することが出来るのか。
自身の健康にどんなに自信があっても保証はされていません。
状況は変化することを考えなくてはいけないのです。
「賃貸より買ったほうがお得である」
「資産価値として子供の為に残すことができる」
「老後も賃貸の費用をずっと払い続けるのは、損している」
と、誰しもが思うところかもしれませんが、費用面で持ち家のほうが「お得になる」という営業トークから購入を決断するのはとても危険です。
今回わたしは賃貸と持ち家に掛かる費用をシミュレーションして徹底比較し、そのうえでなぜ現在「賃貸派」であるのかをお伝えできればと思います。
【シミュレーション条件】
・同一マンションで賃貸した場合と購入した場合を比較
・実在する中古マンションをサンプルに購入額と家賃の相場を算出
・シミュレーション期間:35歳から85歳までの50年間
【対象物件】
・種別:中古マンション
・エリア:東京都多摩地区(駅徒歩10分)
・築年数:10年
・広さ、間取:90㎡、4LDK
・価格:購入価格3200万円、賃料11万円/月(管理費含む)
・ローン条件:借入額3200万円のフルローン(諸費用は自己資金)、金利1%
賃貸と持ち家で掛かるお金を比較すると実はたった500万円の差
下記表で賃貸と持ち家の掛かるお金の差を徹底比較してみたところ、持ち家のほうが掛かる費用は安くなり、50年間で約500万円の差となりました。
しかし、これは1年間ではたった10万円の差、1カ月で考えると、わずか8,333円の差です!
私は、この金額の差は少ないものだと思います。
その理由として、この差はリスクを想定して比べると、大きな差にはならないと思うからです。
考えられるリスクとしては、大規模な災害発生時には家自体に住み続けることができないということや、50年間という長い人生では生活状況の予期せぬ変化により、住宅ローンの支払いが継続できなくなる事態もあるからです。
長年続く住宅ローンを払えない場合は、家を手放さなくてはいけなくなります。
一方、賃貸であれば、生活状況が苦しくなったときには、広さや住むエリアを変更し柔軟に対応できるメリットがあります。
仮に60歳で2万円下げた部屋にダウンサイズした場合、固定費がその後25年間で600万円減ります。
そうすると賃貸のほうが100万円安く収まるという結果にもなるのです。
そのため「持ち家を買ったほうが得」という事実はないと結論付けています。
初期費用を比べてみると賃貸は44万円、持ち家は250万円
では、初期費用の比較からお伝えします。
初期費用で比較を行うと、賃貸のほうが安く収まります。
賃貸の初期費用は、以下の通りです。
① 家賃保証料の11万円(総賃料1か月分)
② 仲介手数料の10万円(家賃の1か月分)
③ 火災保険料の3万円
④ 敷金の10万円・礼金の10万円(各家賃1か月分)
合計:44万円
では続いて持ち家に必要な初期費用は、以下の通りです。
① ローン保証料の65万円
② 仲介手数料の107万円
③ 不動産取得税の25万円
④ 登録免許税・登記費用の30万円
⑤ 火災・地震保険料の15万円
合計:250万円
(※初期費用を住宅ローンで組むことも可能です)
いかがでしょうか?
仮に50年間の間に引越しを3回したとしてもまだ賃貸の初期費用のほうが安いことがわかりました。
毎月の固定費を50年間で比べてみると、1434万円の差
初期費用の次に、毎月の固定費を比較してみましょう。
毎月の固定費という観点では、50年間の総額で1400万円以上も賃貸のほうが総支払額は多くなりました。
賃貸の毎月固定費は、以下の通りです。
①家賃:10万円/月
②管理費:1万円/月
合計:月々11万円×12カ月×50年間=6,600万円
持ち家の毎月固定費は、以下の通りです。
① ローン返済費:9.3万円/月(35年で完済)
➁管理費:0.8万円/月
③修繕積立金1.3万円/月
合計:(月々11.4万円×12カ月×35年間)+(月々2.1万円×12カ月×15年間)=5,166万円
ローンの返済期間中の35年間は賃貸11万円、持ち家は11.4万円と毎月支払額はほぼ同額です。
しかし、今回のシミュレーションはで、持ち家は35年で支払期間が終わり、以降の15年は②③のみの支払いになるのに対して、賃貸は50年間同額の家賃を支払い続けた場合と仮定したため、賃貸の支払額が多くなるという結果になりました。
とはいえ、仮に賃貸も36年目から家賃を2万円下げた家に移り住めば、この毎月の固定費の差大きく埋まります。
【Q&A】
Q:賃貸の家賃が値上がりする恐れはない?
A:賃貸人・賃借人の双方の合意があった場合のみ賃料変更が可能です。
契約書に特約が無い限り、承諾のサインをしなければ勝手に値上げはされません。
特別出費を50年間で比べてみると、650万円の差
次に毎月のランニングコスト以外に、継続して居住するために掛かる費用を比較してみます。
すると50年間では賃貸のほうが約650万円も負担額は少なくなります。
賃貸で想定されるのは、以下の通りです。
① 火災保険料:3万円×24回=72万円(2年毎)
② 物件更新料:11万円×24回=264万円(2年毎)
③ 借主負担が発生した場合のリフォーム代:50万円
合計:386万円
持ち家で想定されるのは、以下の通りです。
① 固定資産税8万円×50年間の400万(毎年)
② 火災保険料15万円×4回の60万円(更新10年毎)
③ 大規模修繕費の200万円
④ 室内リフォーム代の400万円
合計:1060万円
大きな金額となる内装リフォームはしなくて良い?と声も上がりそうですが、現実的に給湯器や水回りの耐用年数がもたないはずです。
老後もずっと暮らす予定ならばリフォームは必須になります。
そして、50年間掛かるコストをすべてをトータルしてみると、冒頭でお伝えしたように賃貸と持ち家で掛かるお金の差は、実はたった500万円ということになりました。
そして、冒頭でもお伝えしましたが、仮に60歳で家賃が2万円安い部屋にダウンサイズした場合、固定費がその後25年間で600万円減るため、この差は簡単に埋めるめることができるのです。
それでも私が「賃貸派」になった理由
今回のシミュレーションでは、50年間で掛かるコストにそれほど大きな差はないものの、「持ち家」に軍配が上がりました。
ですが、わたしがそれでも賃貸をおすすめするには理由があります!
ここからはその理由についてお伝えします。
出産・転職・離婚・病気、環境の変化に柔軟に対応できる
賃貸派になった1つ目の理由は、30代・40代・50代と節目ごとの環境の変化に応じて、お部屋のダウンサイズ・アップサイズ出来ることです。
結婚当初、子供は1人で十分と思っていても2人目・3人目と子供が増えた場合でも、賃貸であれば気軽に広い部屋に引越しを検討すればよく、子育て環境の良いエリアを選ぶことも可能です。
仮に転職や離婚などで世帯収入が落ちた場合も家賃の低い物件にダウンサイズすれば良く、柔軟に対応できます。
持ち家の最大のリスクは離婚と転職
平成27年度の厚生労働省の調査によると、現在の日本の離婚率は約35%前後になっており、離婚件数は22万件にものぼるという事実があります。
わたし自身、30代に離婚を経験しており持ち家の購入前だったことで揉めることなく離婚することが出来ました。これがもし夫婦で持ち家を購入して、自分が住宅ローンの連帯保証人になっていたらと思うとゾッとします。
また、厚生労働省「雇用動向調査」よると、離職の理由は多くが個人的な理由とされているため、どのような家庭にも環境の変化は生じる可能性が高いということが下記グラフからも分かります。
日本の平均勤続年数は12.1年で一生の労働年数を40年で計算すると約2回転職(3社経験)していることが裏付けられているのです。
誰にでも訪れる可能性のある環境の変化に対し、柔軟に対応できる状態にしておくことが長期的にストレスのない生活につながるのではないかと思います。
持ち家は簡単に引っ越せない(オーバーローンでは売れない)
賃貸派になった2つ目の理由は、持ち家の場合は簡単に引越しができないからです。
持ち家の場合、引越しをするためには自宅を売却する必要がありますが、売却しようもローンを一括返済できなければ売ることさえできません。
しかし、借入当時に頭金を多く入れている場合を除いて、多くの場合は物件の価値よりもローン残高の方が大きいオーバーローン状態に陥ります。
そのため、収入が減ったので手放したい、離婚したので手放したい、急な転勤で手放したいと思っていてもまだ住宅ローンの残債が多く残っているはずなので、売却が出来ません。
家を売るには、住宅ローン残債額を上回る金額で成立しなくてはいけませんが、大都市以外の家は資産価値が値上がりしていることは少ないため、残債が上回っていることがほとんどです。
この足りない分を貯金などで負担しないと売却ができず、「いざ、引っ越そう」としても簡単にはできないということなのです。
【補足】住宅ローンの残債が残った状態で売ることができる任意売却という方法も取れますが、信用情報に傷が入るなどデメリットがあります。
「持ち家から引っ越すなら賃貸として貸せば良い」は考えが甘い
このように多くの方が、売れないと判断した場合は、売れるまでの間は住宅ローンを払い続けるか、分譲賃貸として貸し出す選択をされます。
「賃貸物件として家賃収入を」と安易に考えられる方もいますが、自宅を賃貸として貸し出す場合も住宅ローン・固定資産税・管理委託料・賃借人の変わる度の修繕費用がランニングコストになることを忘れてはいけません。
わたしは、持ち家を賃貸に出すことは様々なリスクや費用が掛かるため、お勧めできないとお伝えしています。
理由は、基本的に賃貸オーナー業は一棟丸ごとや複数の物件や所持をして空室のリスクを分散しながら経営するべきだからです。
以上のことから、すぐ引越しを余儀なくされたときに身動きがとれず簡単に引っ越せないことは、持ち家の大きなデメリットと言えます。
子供の独立後、新たな環境でスタートができる
賃貸派になった3つ目の理由は、子供の独立後、気軽に引っ越しをすることが可能だからです。
子供の独立後はそれほど広い部屋は必要なくなります。
実際に、60歳以上の家庭に聞いたところ、81.9%が「子どもが独立後、活用しきれていない部屋がある」と答えており、答えた家庭の4割が「すぐには住み替えられないが住み替えたい」というアンケート結果も出ています。
(出典:矢野経済研究所)
賃貸であれば、このタイミングで引っ越しをしてダウンサイズすれば家賃を抑えることができ、毎月のランニングコストも持ち家と変わらない差になるのではないでしょうか。
例えば…60歳から家賃が月11万円の家から月7万円の家に引越しをすれば、85歳までの25年間で1200万円も抑えることができます。
そして、35年後夫婦二人でのライフスタイルも様々な理由から変わっているはずです。
老後資金に余裕があるならば、交通の便の良いところに引っ越すことも可能です。
退職を機に夫婦で旅行生活をするのであれば、家賃の安いお部屋に引っ越し、住居に重きを置かなくてもいいはずです。
第二の人生として田舎暮らしを実現することもできるため、ずっと同じ土地に居なくてはいけないということが無いことも利点だと思います。
持ち家が築50年になった時に住み続けられるのか?
賃貸派になった4つ目の理由は、築50年以上のマンションがいかに老朽化しているかをこの目で見てきているからです。
持ち家が築50年となった段階は想像できますでしょうか。
一般的なマンションブームは1968年頃からと言われており、ようやくマンションブーム当初の分譲マンションが築50年頃に該当します。
もちろん、人が住むことは可能ですが資産価値としてはほとんど残らないような価格となってしまうでしょう。
その持ち家をリフォームしたとしても、マンション自体の老朽化は拭えません。
50年以後さらに住み続けたいと思った場合は、新たに給湯設備や水周りの再リフォームが必要になります。(そもそも築50年の物件に規格の合う設備があるかも分かりません)
それでも住み続けられるのでしょうか?
老後問題も実は心配ない、賃貸も年金収入があれば住める
賃貸派になった5つ目の理由は、年金受給をしていれば賃貸の部屋は借りられるからです。
よく賃貸物件で質問されるのが、「老後、雇用されていないのに新しいお部屋が借りられるのか?」という心配です。答えは年金という収入があれば問題ありません。
65歳以上となると、新しく部屋を借りる際に保証人が必要になりますが、これは何かあった際の連絡先として必要になるということです。
どうしても保証人が見つけられない場合でも、県営・市営・URなどの住宅であれば保証人なしでも住むことができます。賃貸だと老後に住む場所が無くなるという不安はないと思っていただいて大丈夫なのです。
なぜ私が「持ち家派」になれないのか
では、続いてわたしが持ち家派になれない理由もお伝えします。
結局は大都市でない限り資産価値は低い
1つ目として、持ち家も将来的には資産価値は大きく下がるということです。
住宅ローンの支払いが完了して、あとは資産価値が残るのでプラスになるという考えもありますが、基本的に大都市の駅近5分以内でない物件の場合、価値は低いどんどん下がっていきます。
現在、日本の空き家状況は、平成30年住宅・土地統計調査の概数が公表されたところによると、全国で846万戸です。
このように人口が減少して家が余っている日本で、持ち家の資産価値が50年後にどのくらい残っているのかは大きな疑問です。
将来売却する際に、売却益から税金や仲介料などを払った場合にいくら手元に残るのかは非常にギャンブル的になってしまうと考えたほうが良いでしょう。
子世代に継承しても大規模なリフォームが必要
2つ目として、持ち家は大規模なリフォームが必要であることです。
資産として残った家を子世代に相続させようと考える方は多いですが、ここで想像しなくてはいけないのは約50年後の持ち家の状態です。
給湯機は基本的に20年~25年耐用年数と言われており、交換が必要になるはずです。
水周りも様々な個所に不具合がでている可能性もあり、壁紙やフローリングは恐らく経年劣化で傷んでいるでしょう。
ここまでの状態を通常のリフォーム屋に相談すると400万以上かかることになります。
せっかくだからと、グレードの良いキッチン仕様を選択したとしたら、恐らく1000万近い金額になることもあるようです。
実際、わたしはいくつか中古マンションを見てきましたが、築10年でも経年劣化が進んでいる物件はたくさんありました。
50年後の状態を想像すると、カビや傷、建具不具合、水回りの故障・劣化すべてを新しくしないと住めないのではないかと思います。
そして内装は新品のように変えられますが、外観は劣化した状態であることは間違いありません。
50年後果たしてお子様が同じ地域で暮らしているかもわからず、外観も劣化した状態の家に住むことはなかなか難しいかもしれません。
相続問題で揉めることが多い
3つ目として、前述の通り、お子様が住むことがないならば相続資産として売却すればよいのではないかという考えがあります。
ですが、実はこの不動産の相続こそ揉めることが多く、生前に売却し処理することをお勧めしています。
仲が良かった兄弟が相続問題でバラバラになってしまうことほど悲しいことはありません。
災害に対する補填は難しい
4つ目に災害に対する補填が難しいことです。
火災保険などに加入はしているものの、実際に大災害に見舞われたらどうなるのでしょうか。
保険金が下りたとしても建物の住めない場合、大規模修繕する余裕はあるのでしょうか?災害地の場合は近隣土地の値段も急落します。
人生に災害はないに越したことはありませんが、これこそ災害大国日本では「持ち家」のリスクを高めているのです。
まとめ
本稿では、なぜわたしが賃貸派なのかお伝えさせていただきました。
長い人生です。ローンを組んだ時の環境と変化することは不思議ではありません。
賃貸の場合は、環境の変化に柔軟に対応できることでリスクは少なく、費用的にもたった500万円の差であること(この差も賃貸物件によっては変わる)から賃貸派になりました。
金額を徹底比較してみることで「お得になるほうは?」と家を探すことは大変危険であることがお分かりいただけたかと思います。
賃貸でも持ち家でも、金額的にお得になるという選び方でなく、なぜその土地が良くてその家に住みたいのか。これが不動産選びの大事なポイントです。
さらに持ち家を購入する場合は、何かあった時にどうするのかをご家族できちんと話し合うことによって、持ち家のリスクを回避することになるとなります。