任意売却後に残ったローンはどうなる?
自宅の不動産価値よりもローンの残債のほうが大きい状態のことを一般的にオーバーローンと言います。
住宅ローンを滞納してしまい、やむを得ず自宅を任意売却した場合、売却代金で住宅ローンをすべて返済できればよいですが、オーバーローンで残債が残ってしまうケースも珍しくありません。
では、オーバーローン状態で任意売却しても残債が残ってしまった場合、その残債はどうなるのでしょうか。
目次
残債は返済義務が残る
自宅を任意売却しても住宅ローンの残債が残ってしまった場合、この残債も当然ながら返済義務が残ります。
例えば、ローンが2,000万円残っていて1500万円でしか売れなかった場合、残りの500万円も何らかのかたちで返済しなければならないのです。
なお、この残債を放置したり滞納すると、給与や資産を差押えられる可能性があるので、絶対に放置だけはしないようにしましょう。
【注意:任意売却は「持ち出し費用は無し」であっても「無料」ではない】
実際には任意売却業者の仲介手数料や抵当権の抹消費用など、売却に必要な諸費用も売却代金の中から差し引かれますので、任意売却による資金の持ち出しはなかったとしてもその分は債務に上乗せされます。
従って、上記のケースで言えば、実際には500万円以上の残債が残ることになります。
「債権者と交渉すれば減額してくれる」という業者に注意
一部の悪徳な任意売却業者で、「仮に残債が500万円残ったとしても、その債権は債権回収会社に安値で譲渡されるので、その債権回収会社と交渉すれば20~30万円払えば残りは免除してくれます」というセールストークをする業者がいるそうです。
その理由としては、「債権回収会社は不良債権を格安で買っているため、少しでも回収できれば元が取れるから」という口実だそうです。
結論から言うと、そんなおいしい話はあり得ません。
10年ほど前まではそういったケースも稀にあったようですが、近年では不良債権回収会社が仕入れる不良債権の仕入額も高騰しているため、大幅な減額はあり得ません。
そもそも、債権回収会社がいくらでその不良債権を仕入れたかは関係なく、500万円の債権であれば500万円を回収する権利を持っているわけですので、それをわざわざ数十万円で妥協することなどありえないのです。
「弁護士と提携して残債を0円にします」という業者にも注意
最近では「弁護士と提携しているから残債が残ってもゼロにできる」という謳い文句で営業をする任意売却も出てきています。
結論から言うと、これは完全に嘘ではありません。実際に残債をゼロにする方法はあります。
その方法とは「自己破産」です。
あたかも当然のように残債をゼロにしますと書いてあるホームページもありますが、自己破産の文字は書いてなくても実際に相談に行くと自己破産を勧められます。
こういった誤認を招く表現をしている業者に何も知らずに相談してしまうと、自己破産まではしたくなかったのにその方向で話を進められてしまいますので注意が必要です。
【注意:自己破産することが悪いわけではない】
自己破産は法律で定められた再出発のための法的制度です。(詳しくは後述します)
実際に、自己破産をすれば任意売却後に残った債務はすべて帳消しにすることができます。
従って、決して自己破産を選択することを批判する趣旨ではありません。
ただし、それを正確に伝えずに誤認するような表記や説明をする業者があるのでご注意ください。
残ってしまった住宅ローンへの対処法
任意売却しても残ってしまった残債をどのように処理するからは、主に3つの方法があります。
それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。
分割返済(任意整理)
最も一般的な方法は、債権者と話し合って分割して返済していく方法です。
ご自身の収入や債権者がどこの会社かにもよりますが、一般的には毎月1.5~3万円ずつの返済となることが一般的です。
なお、所得の多い方であれば月4~5万円を求められたり、逆に母子家庭・年金収入のみの高齢者の場合は月5千円~1万円で合意できる場合もあります。
任意整理の条件
・債権者の合意が必要
任意整理のメリット
・債権者との交渉次第で分割払いに応じてもらえる
・保証人がいても迷惑を最小限に抑えられる
・今保有している車をそのまま使える
任意整理のデメリット
・債務の額自体が減るわけではないので長期間に渡って払い続けなければならない
・長期での支払いになるため、死亡した際に債務が残っていると相続人へ相続される
・住宅ローン以外の債務は減らない
個人再生
個人再生とは、裁判所を通じて債務を大幅に圧縮する方法で、小規模民事再生とも呼ばれます。
基本的には債務を5分の1にして、それを原則3年間で返済します。
(ただし100万円以下にはなりません、また債務が1500万円以上の場合は圧縮幅がより大きくなります)
つまり、仮に住宅ローンの残債が500万円だとしたら、5分の1の100万円を3年で返済すれば残りの400万円は免除されることになります。
なお、個人再生は上記の任意整理と異なり、住宅ローン以外の債務(自動車ローンや消費者金融からの借金)も合算して圧縮することが可能です。
個人再生の条件
・「安定した収入」があり裁判所が再生条件を満たすと認めることが必要
※(正社員→〇 自営業・派遣→△ パート→×)
個人再生のメリット
・債務の自体を減額できる(任意整理は分割にするだけで債務額は減らない)
・自動車ローンが残っていなければ車をそのまま使える
個人再生のデメリット
・官報に掲載される
・保証人がいれば保証人に請求がいく
・自動車のローンが残っている場合、車を引上げられる可能性がある
自己破産
自己破産は、裁判所を通じて債務をすべてゼロにする手続きです。
任意売却して残った住宅ローンの残債だけでなく、他の債務(自動車ローンやその他の借金すべて)もすべて免除されますので、任意売却後の返済負担を軽減する方法としては最も強力な手続きと言えます。
なお、自己破産すると「人生の終わり」「人として扱われない」などの誤解や都市伝説がありますが、あくまでも法律で認められている再出発のための制度ですので、その点はご安心ください。
自己破産の条件
・借金の理由が「ギャンブル」や「浪費」ではないこと
自己破産のメリット
・すべての債務が免除される
自己破産のデメリット
・官報に掲載される
・保証人がいれば保証人に請求がいく
・自動車のローンが残っていなくても車を引上げられる
どの方法を選択すべきか?
任意売却はあくまでも生活再建のための手段です。
従って、任意売却して終わりではなく、他の借金なども含めて任意売却した後に残った残債をどのように処理するかが生活負担を軽減するうえでより重要な問題です。
上記3つの方法のうち、どの方法が適しているかは人それぞれの状況や意向によって異なりますので一概には言えませんが、主に次の観点から考えることで最適な方法が見えてきます。
住宅ローン以外に借金があるか?
住宅ローン以外にも借金がある場合、当然ながら本来であればその借金も返済していかなければなりません。
住宅ローンの残債を分割返済しつつ、その他の借金も返済していくとなると、自宅を任意売却したにも関わらず生活が全く楽にならないということも考えられます。
そのような場合は、残債の分割返済ではなく、その他の借金もまとめて個人再生や自己破産で圧縮してしまった方が負担は軽減されます。
親や兄弟などが連帯保証人になっていないか?
個人再生や自己破産をすると自分自身の債務はなくなりますが、連帯保証人の債務はなくならず連帯保証人に請求が行ってしまいます。
もし連帯保証人がいる場合で、その人にはできる限り迷惑を掛けたくないということであれば、分割返済をしていくのが現実的な方法です。
なお、家計を共にしている配偶者が連帯保証人の場合、どちらか一方が自己破産や個人再生をしても配偶者に請求が行くだけですので実質的に効果がありませんので、その場合はご夫婦で自己破産または個人再生を一緒に手続きする必要があります。
住宅ローンの残債がいくらか?
任意売却後に残ってしまった残債の金額によっても判断が分かれます。
現実的に100万円程度であれば分割でも数年で終わりますので、他の借金が少ないのであれば自己破産までする必要はないでしょう。
逆に500万円も残債が残ってしまったのであれば、仮に月に2万円ずつ返済しても完済までに20年以上かかりますので、もう住んでいない家のローンの返済を20年以上するのかという判断になります。
車を保有している場合
自己破産をすると、原則として自動車などの資産は引き上げられてしまいますので、どうしても今の車を手放すことができないという方は他の方法を選択することになります。
※ただし、古い車で資産価値が著しく低い(30万円未満が目安)という場合は、引き上げられずにそのまま使うことができる場合があります。
また、個人再生の場合は自動車ローンが残っていなければそのまま使うことができますが、ローンが残っている場合は原則として回収されてしまいます。
職業制限に注意
一部の職業は、自己破産をすると一時的に資格が停止になったり、就業できなくなってしまいます。
いくつか例を挙げると、保険募集代理人、弁護士・税理士などの士業、警備員などです。
それ以外にも資格の保有要件や更新要件になっていることがありますので、自己破産を検討される場合はご自身が保有して実際に活用されている資格の要件を確認する必要があります。
まとめ
任意売却は家を売って終わりではありません。
むしろ任意売却した後に「どのように負担を軽減して生活を再建するか」、これが最も重要な問題です。
ここの選択を間違えると、結果的に生活が楽にならなかったり、連帯保証人に多大な迷惑を掛けるなど、悲劇的な結末を迎えてしまう可能性すらあります。
残債の処理の方法として、ここでは主な3つをご紹介しましたが、住宅ローンの残債だけでなく他の借金や支出、収入などを総合的に考慮して判断されることをお勧めします。